大学2年生の夏に1ヶ月半、アメリカに留学した。現地生と一緒に夏休みの集中講義を履修できるというプログラムだった。大学の国際本部が募集していて、旅費・学費用に奨学金が出た。
カリフォルニア大学デイビス校(UC Davis)という大学で、カリフォルニアの州都サクラメントの近くにある。小さな商店街を歩いていくと、いつの間にかキャンパスに入っているような大学町だった。
農業が有名な大学で、キャンパスに牧場もワイナリーもあるほど広大だった。寮から授業のある校舎に行くにもかなり歩かなくてはいけない。学生生活には自転車が必須になる。
ということで、デイビスに着いてすぐ自転車を買いに行った。比較的充実している町のバス路線を使って、Targetという郊外の大型ショッピングモールを目指す。広大な駐車場と巨大な四角い建物。いかにもアメリカという感じの、夜にはドクとマーティーがデロリアンを実験してそうなショッピングモールだった。
1万円くらいの自転車と、極太ワイヤーロックと鉄棒ロックを1つずつ買った。歓迎パーティーで話した現地生の子が、治安は全然悪くない地域だけど、それでも鍵のない自転車は必ず盗まれると言っていたからだ。
これまたアメリカンなだだっ広い道を走り、町に帰った。無意識に日本の癖で左側を走ってしまい、死ぬかと思った。右側通行に慣れるまでは少し時間がかかった。
それにしてもデイビスは、アメリカ随一の自転車町を誇っているだけあって、自転車があると段違いに便利だった。いつも晴れてるし、どこまでも平坦だし、町中に駐輪スタンドがあるし、中央広場には「自転車の殿堂」という謎の施設まであった。小さな町だから、ちょっと走ればすぐに一面のトウモロコシ畑も見に行けた。
さらにサンフランシスコにも自転車を持っていける。デイビスからUCバークレー(UC Berkeley)までシャトルバスが走っていて、自転車を乗せることができる。バークレーからは、自転車を持ったまま乗れるBARTという地下鉄で、サンフランシスコまですぐに着く。
サンフランシスコの大通りを路面電車と並走しながら駆け抜けるのは最高の気分だった。ただ路面電車の線路がちょうど自転車のタイヤサイズの溝になっていて、挟まりすぎてパンクした。海外で自転車がパンクするほど心細い経験はなかった。
幸い1泊する予定だったから、翌朝すぐに自転車屋で修理してもらった。あとはフェリービルディングからゴールデンゲート橋まで、縦横無尽に走りまくることができた。
たった1ヶ月半の相棒だったけど、帰国する時には少し寂しいくらいに愛着が湧いていた。大学のFacebookネットワークで呼びかけると、買い値よりも高く売れた。